Research

岩盤・石油生産工学研究室の研究概要を説明します。

Reservoir Geomechanics Numerical Simulation Petroleum Production Engineering Carbon Capture and Storage

Research Activities
研究紹介

日々の生活や産業活動を継続しながら、地球温暖化の一因となる恐れのある二酸化炭素(以下、CO2)などの温室効果ガスの排出を抑制することは、人類にとって最も切実かつ困難な課題です。現在、世界の一次エネルギー需給の8割を石炭・石油・天然ガスといった化石燃料が占め、エネルギー安定供給の観点からは、当面の間は化石燃料が欠かせません。しかし、温室効果ガス排出を削減しカーボンニュートラル実現を目指すという国際社会の目標達成のためには、化石燃料の利用により排出されるCO2に対応する必要があります。

岩盤・石油生産工学研究室では、ジオメカニクス(岩盤力学)の知見を活用し、油ガス田の生産能力向上のための研究や、貯留層流体の漏洩や誘発地震といった環境対策に関する研究、石油・天然ガスの開発技術をメタンハイドレートや地熱開発、CO2地中貯留・水素地下貯蔵へ応用する研究などを行い、エネルギー安定供給とCO2排出削減の両面に貢献することを目指しています。

Research on Sand Production and Control
出砂対策に関する研究

地下流体(油、ガス、水など)の生産により孔隙(岩石に含まれている隙間)圧力が低下すると、岩石の粒子間に作用する力が増加し、破壊を生じることがあります。このとき、破壊された岩石の断片(砂)が、流体と一緒に坑井(井戸)内に流れ込む現象が出砂現象です。出砂は砂岩貯留層の約70%で発生しているとの報告もあり、坑井生産能力の低下や、坑内機器の損傷など深刻な生産障害に繋がります。国内でもメタンハイドレート海洋産出試験において、出砂問題により試験が中断される事例が発生しました。出砂は圧入井でも発生することが知られており、CO2の地中貯留を目的としたCCSや水素地下貯蔵などにおいても、軟質な砂岩層の開発では出砂対策が求められます。
 当研究室では、出砂量を予測するモデルの開発や、出砂による坑井生産性への影響評価、坑井の生産・圧入能力を維持できる最適な仕上げ手法についての研究を行っています。


Research on Hydraulic Fracturing
水圧破砕法に関する研究

水圧破砕法(hydraulic fracturing)とは、貯留岩に流体を高圧・高流量で圧入し、き裂(フラクチャー)を発生させることで流体の流動性改善を図り、坑井の生産能力を向上させる技術です。近年は、米国でのシェールガス・オイルの開発ブームもあり、水平坑井から複数のき裂を発生させる多段式水圧破砕法が広く用いられるようになっています。地熱開発の分野でも、水圧破砕により高温岩体の透水性を改善するEGS(地熱増産システム)技術が注目されており、地熱資源量の拡大や開発コストの低減に貢献することが期待されています。
 当研究室では、き裂進展予測シミュレータの開発や、き裂の分岐や曲折に関する基礎実験、水圧破砕坑井の生産性評価などの研究に取り組んでいます。


Research on Fluid Diversion Technology
ダイバージョン技術の研究

水圧破砕法では、多数のき裂を効率良く形成するため、流体を均一に圧入区間へ分散させるダイバージョンと呼ばれる手法が用いられます。ダイバージョンは機械的手法と化学的手法に大別されますが、砂粒や樹脂を用いた新しい手法に注目が集まっています。シェール開発では、隣接する坑井にフラクチャーが導通してしまうフラックヒットと呼ばれる現象が報告されており、坑井生産能力の低下やケーシング管の破壊などの問題を生じています。フラックヒットを防止する目的でも、ダイバージョン技術の進展が求められてます。地熱増産システムでも、ダイバージョン技術によりき裂内流体の流動を制御し、地熱エネルギーの回収率の向上が期待されてます。
 当研究室では、生分解性樹脂やプロパントなどの多成分粒子によるき裂閉塞機構の解明と、さまざまな圧入条件での閉塞性能評価、実フィールドへの適用性の検討などの研究を行っています。


Research on Acid Wormholing
酸処理ワームホール現象の研究

酸処理法は水圧破砕法と並び代表的な坑井刺激法として知られ、様々な貯留層の油層障害(Formation damage)の除去に用いられています。特に、炭酸塩岩貯留層では、酸を高流量で圧入することで、ワームホールと呼ばれる高浸透率の流路が形成され、坑井の生産能力が飛躍的に向上することが知られています。炭酸塩岩は粒子間孔隙などの一次孔隙のほか、二次的作用による溶解孔隙とフラクチャー孔隙などを有するため、砂岩に比べて非常に複雑な孔隙構造を有することが知られています。このような要因から、複雑に分岐し成長するワームホールの形成過程や伸展効率については未だ未解明の部分が多く、今後も、酸処理法最適化のための研究が求められています。
 当研究室では、炭酸塩岩貯留層におけるワームホール現象について、数値解析と室内実験により、酸による鉱物溶解挙動やワームホール発生機構の解明を目指した研究を行っています。


Research on Wellbore Instability Problems
坑井不安定化問題に関する研究

坑井の掘削作業中に、坑壁で破壊(坑井不安定化)が生じると、掘進率の低下やドリルパイプの抑留、堀屑の地上への運搬に支障が生じるなど、掘削障害の原因となります。この対策のために、毎年、数百億円が費やされているとの試算もあり、掘削コストの主要因の一つとなっています。特に、頁岩層の掘削においては、崩壊や逸泥などの掘削障害が数多く報告されており、頁岩に存在する節理や層理、き裂といった不連続面の存在や力学的特性、掘削泥水の浸透や、粘土鉱物の膨潤の影響など、様々な要因が坑井の安定性に影響を与えています。
 当研究室では、このような坑井不安定化問題でみられる複雑な物理現象を解析するために、熱、流体、化学、力学を考慮したマルチフィジクスシミュレーションモデルを開発し、実フィールドの掘削データ解析などを国内上流企業と共同で行っています。


Research on CCS Geomechanics
CO2地中貯留の安全性向上を目指す研究

2050年のカーボンニュートラル実現へ向けて、民間主導のCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)事業化の議論が進んでいます。CCS事業では、様々な面から経済性、安全性、事業リスクの検討が必要とされ、その中でも圧入したCO2の漏洩や誘発地震への対応・対策が技術課題となっています。CO2地中貯留では、開発対象地域の地質構造や貯留層及び周辺岩盤の岩石性状の調査が必要ですが、十分なデータを取得することが困難なケースもあります。岩盤の変形・破壊や遮へい層健全性、CO2流動挙動は数値シミュレーションで解析されますが、断層などの地質情報の不確実性を十分に考慮する必要があります。
 当研究室では、CO2地中貯留における、地表変動や圧入流体の漏洩、誘発地震といったジオメカニクス問題の解析のための広域ジオメカニクスモデルを開発し、これらジオメカニクスリスクの定量的評価手法の構築を目指した研究を行っています。